雨が降りそう、しかし傘は持っていかない

空模様が怪しい

直感が働き、これは降るなと思う

かなりの頻度で当たるのだ

とてもありがたい能力だと思う

しかし、傘を持っていかない

必要になるであろうことはわかっている

軽量の折り畳み傘を持っているし、荷物になるわけでもない

合理的に考えれば、持って行こうぜ一択なのだが、ココロのバランスが閃光のように崩れ、判断力の上に覆いかぶさり、結論を逆に導いていく

あれっ、忘れた、なのではない

持ってきてないんである

それで、帰りに降られるんである

コンビニでビニール傘を買おうか

いや、この値段で天ぷらそば食えるな

濡れて帰る

不思議と後悔がない

やっぱり降るのだな、当たったわと、にやける

 

ドゥーオーアルガナクーガナ

東南アジア系のお母さんと幼稚園児くらいの息子が歩いていた

急に息子が道の真ん中に走り出す

ドゥーオーアルガナクーガナ!

お母さんがそう叫ぶと息子は止まり、振り返って微笑んだ

どこの国の人だろうか

なんて言ったんだろう

状況から察するに、走らないで!もしくは止まって!と言ったのであろう

しかし発音は、ドゥーオーアルガナクーガナなのである

原文が長すぎる

走らないで!可愛い坊や!
かもしれない

止まって!愛しき息子
かもしれない

もしくは、アルガナクーガナという名前の息子で、ドゥーオの部分が、ストップの意味なのかもしれない

また、この言語は短文でとても多くの情報を詰め込めるのかもしれない

昨日冷蔵庫にあったドラ焼きを半分食べたでしょ!知ってんだからね、お母さんは!お父さんのために買ったのに!バラされたくなければ止まりなさい!

という意味なのかもしれない

なんであなたは変わった日本語ばかり覚えるの?砂肝とか虚脱とか日々是決戦とか、なかなか使う機会ないよ!もっと基本的なの覚えなさい、分かった?分かったなら止まりなさい!

ということかもしれない

ふろふき大根と赤魚の粕漬けが好きなんて困った坊やね、趣向が40年くらい早いわ!お母さんメニューに困っちゃう!ハンバーグとかじゃだめ?今日も肉より魚の方がいいなら止まりなさい!

色んな可能性が考えられる

話しかけて、ぜひ本意を確かめたい

話せないんだった

遠くの場所で起こっている音フェチ

どこか、遠くの場所で起こっている音を聴くのが好きだ

微かに聞こえるというやつ

カタンコトンとうっすら響く電車の音、近所から漏れてくるテレビやラジオの音、バラエティー番組なのか家族が笑っている、夕餉の支度をする包丁とまな板や食器が触れ合う音、遠吠えする犬の鳴き声、配達のバイクが近づきしばらくしてまた遠ざかっていくエンジン音、学生の笑い声、石焼き芋を売るトラック(これはだいたい買おうと思った時には近くにいない)、路地裏から漏れる猫の鳴き声、洗濯機を回す音、布団をパンパンと叩く音

じゃあまた明日ね

また明日な

ずっと聞こえているわけでない、刹那で小さな音が好きなんだろう

耳にすると幸せを感じてしまうよ

バスが来ない時

バスの時刻表を見ると、まだしばらくバスは来ない時

到着時刻になっているのに、姿を見せない時

じれったい

だったら歩いて行ってしまおう

わりとすぐ、やってきたバスに抜かれる

メインのおかずが瞬時に消える夜

鯖缶大好きである

水煮缶が近所で100円で売っていたのだ

ふふふ、食ってやるのだ

食ってやるのだ

うりゃっ

プルタブが取れた

缶詰は1ミリも開いていない

缶切りはない

売ってる店も近くにない

ふふふ、食わないのでおいてやるのだ

そっとしておいてやるのだ

しくしく

下戸とおっさん

えっ!飲めないんですか!?

このセリフを何度聞いたことだろう

おっさんは酒が飲める

世間の人はそう思いすぎなのだ

若い可愛らしい男の子ならまだしも、熊五郎のようなおっさんが酒飲めないなんてありえんでしょ!

相手の顔にそう書いてある

酒を勧めてくる相手はそんな表情をしていると気づいてはないだろうが、おれには分かるのだ

日本酒好きでしょ!絶対!

そう言ってくる人もいる

酒好きなのは当たり前で日本酒好きそうな外見

おっさんで、髭が濃く、剃り残しもあり、眉毛も太く、昭和の雰囲気

日本酒路線!

もしくはイモ焼酎!

そういう方程式が成り立つらしい

居酒屋に入り、まずは皆ビールだよね?というときが第一関門である

いい歳こいたおっさんが、おれは飲めないんだと言いづらい

よもや下戸などとは思っていない

おれはオレンジジュース!

みんなの、えっ?という動揺した視線が注がれる

まぢですか!?

みんなビールを頼んで気持ちよく乾杯という予定調和を壊すんですか?

い、言えん!オレンジジュースを注文するなんて言えん!

むしろ、ドリンクはいいから、メニューの端っこに書いてある、ご飯味噌汁セットが食べたい
お新香もついてるし

ここにサバの塩焼きを単品で注文なんかしたら最高だべな!
大根おろしに醤油をかけて、サバとご飯と味噌汁と

ああなんたる幸せ!

はっ

そもそも飲み会に行かなければいいだがね

ここのところ全く行っていない

旧知の仲間とは飲みに行く

みんなビールでいい?
で、徳俵さんはご飯味噌汁セットにブリの照り焼きにしてお茶でいいの?

飲み会というの名の、おれだけご飯の会

めっちゃ気が楽やて

天国だ

 

眠れないおっさん

ちょっとしたことで眠れない

これがするともうあかん

そろそろ寝ようかな〜と布団に潜り込むも、隣の部屋から話し声や物音がすると、気になって眠れない

そんなに大きな音でなくても眠れない

気にするなて、こんくらいと自分に言い聞かせるほど、眠れない

翌日、仕事のときは特に困る

睡眠不足がモロに体調に影響するので、しっかり体を休めておきたい

ずっと賃貸物件に住んできて、隣人という存在がとても大きな意味を持つようになった

夜中に仲間と電話したり、遊んだり、テレビを通常の音量で見ているような人だと、めっちゃピンチなのだ

普通の人なら、気にせず就寝できる環境なのかもしれない

住んでるところの目の前が、幹線道路だったり、踏切だったりする方もいるわけで、睡眠ハードルが低いのが羨ましくて仕方がない

どこでも寝れますよ

そうサラッと言えるのってかっこ良くない?

小さなことを気にせず、ちょっとしたことで動揺せず、男らしいイメージだ

何より、生活しやすいと思う、どこでも寝れるって

すいませんが、もう少し静かにしていただけると嬉しいのですが

隣人にこのセリフを何度か言ってきた

あるときは口頭で、またあるときは手紙を投函して

意見を通すのは苦手だ

めっちゃハードル高い

できれば、言いたくない

みんな自由に楽しく過ごして欲しいと思う

しかし、寝れない自分を見捨てるわけにはいかない

ギリギリまで思案した挙句、ドアをノックしたり、手紙を書いたりする

音が気になりだしてから、しばらくは考え込む

気になって眠れないが、おれが過敏なだけで、世間的にはこれくらいの物音は常識の範囲内なのではないか

おれの単なるワガママじゃないだろうか

生活スタイルだって違うわけだし、一概に判断できないかもしれんで

ぐるぐると思いが巡る

堂々巡りで悶々とし、一定時間を過ぎると、切腹するような覚悟で動き出す

すまぬ隣人よ! 静かにしていただけないかという申し出を許しておくれ

幸いなことに、大きなトラブルにはならず、それ以降、皆、静かにしていただけている

誰かと電話していたり、サッカー観戦で盛り上がっていたり、仲間とゲームで盛りがっていたり、色んなケースがあった

今度、引っ越すときは、思いっきり田舎の方がいいな

一軒家で、両隣りも離れていて、目の前の道路は昼間でも往来がほぼ皆無で、森と山と川が点在していて緑が豊かで、時折、たぬきが出没し、蟻が明らかにでかく、トウモロコシが何かに食われているようなところ

不思議なもので、虫や鳥の鳴き声は全く気にならない

むしろ心地いい

年を重ねる度に過敏さが増している気がする

おっさんには都会の喧騒が眩しくなってきた