痒い、とてつもなく
突然のことだった
朝の通勤ラッシの山手線は、当然のようにその日もいい具合に混んでいた
新たに乗客が押し込まれてきて、奥に追いやられた
吊革に伸ばした腕に何かが当たる
くすぐったい
なんだこれは!
見ると、女性のポニーテールの先っぽだった
絶妙な角度で、先っちょが腕に当たり、電車の小刻みな揺れも手伝って、たまらなくくすぐったい
車内は満員で移動できるような状況ではない
できれば次の駅で降りてくれんかな、この女性でなくても、誰かが降りればスペースができるんだが
プシューとドアが開き、多くの乗客がホームに吐き出されていく
はずだったが、朝の通勤客にその駅は不人気のようで、ほとんど誰も動かない
乗ってくる人ばかりだ
なんでじゃ!
この駅には会社がないんか!
おれのまわりのメンバーは全く変わりばえすることなく、再び出発進行
むふ、むふふ
あまりにくすぐったくて、不意に笑ってしまいそうや
完全に不審者ではないか
自分のポニーテールがまさか、おっさんの腕に当たり、悶絶する痒みを与えているとは、まさか思っておるまい
楽しそうにスマホに興じてらっしゃる
くすぐったい、痒いって結構耐えがたい感覚で、何かの本で読んだら、百戦錬磨の武将が、どんな痛みにも泣き言を言わなかったが、痒いのだけはどうにもならん!と宣言したらしい
そんな猛将が耐えがたいものを、おれが我慢できるはずなかろうが!
先っぽが、触れるか触れないかくらいの距離感で、サワサワ当たる
うおうお!言いたい
けど、言えない
うひうひ笑いたい
けど、笑えない
次の駅で周りの乗客が降りていき、空間が空いた
素早く移動して離れる
助かった
あのまま、触れ続けていたら、
ウ、ウヒ、ウヒウヒ、ウヒヒヒヒヒ!
とヤケクソになった悪魔のような叫びをあげていたかもしれない
社会には油断できないことに満ちている
ぎっりぎりやて!