爪楊枝はファッションだと思っていた
ランチを食べ終えた中年の男が、爪楊枝を口にくわえて定食屋から出てくる
当時、大学生だったおれは、ファッションだと思っていた
おれはおっちゃんなんだぜということを印象づけるためのもの
実利的なものではなく、おっちゃんなりのオシャレの一部であると
別に爪楊枝くわえなくても、外見は充分おっちゃんなんだからアピらなくてもいいのにな
月日は流れ、晴れて自分がおっちゃんになった
ファッションでもオシャレでもアピールでもなかった
ないと困る
おっちゃんになってびっくりした
こんなに歯の間にモノが挟まるかね!
取らないと気持ち悪いのだ
年齢を重ねると、歯と歯の間が空いてくる
そこに蒸し鶏なんかが引っかかるのである
定食屋のカウンターに座り、爪楊枝が見当たらないと、厨房の店員のところまで行くようになってもうた
爪楊枝ください